透明な接吻 一.

彼の匂い(かおり)を感じたくて。

何度忘れようと思っても忘れられない。

彼に大切な人が出来ようとこの想いは変わらない。

いつか遠い遠いところで、私は彼といつも一緒に居たのに離れ離れになって

この地球で出会えたのに、今はまた違う道にいる。

梅雨っぽい季節の中、久々に晴れた土曜の昼下がりだった。

 彼の瞳を見るのは何年ぶりだろう。

 元気だった?

お互いにどんな表情をしていいか少し迷いつつ、でも心はしっかりとここにある。 

久しぶりの抱擁を交わした。

 出会った頃の彼のあたたかさとは少し違っていたけれど、何年もの空白を感じさせない私たちの空気感が心地よかった。

  彼が夢に何度も出てきて、キスをしていた。優しいのにどこか切ない君の表情。不思議な感じ。彼の名前をこの街で幾度となく目にする。まるで彼が何か言いたいことでもあるかのように。

 ずっとずっと前に彼と出会って、一夏の恋をして、どれくらいたっただろう。

お互いにそれらしい人は出来ても、彼からの連絡がなくなっても、私の心の一部はまだあの頃の温度を記憶していた。

 

 しばらく止めていたSNSを再開させたら、彼のアカウントが出てきた。フォローはせずに、

 元気にしてる?

とだけ送った。

 以前、彼を必要以上に忘れようとして見えるものは全部捨てた。連絡先、彼からきたメッセージ、貰ったアクセサリー、写真。でもそんなことをしても私の心は記憶し続けることを選んだ。だから無駄な抵抗はやめにした。

 私の胸の奥深くにそっと…公園で見つけた四葉のクローバーをそっと大事な箱に入れて保管して、ほわっと暖かいハートになる女の子みたいに…ずっとあの頃のあたたかい気分でいることにした。今はここになくても、心になら想い出を死ぬまで、いや、死んだ後まで保管できるはずだ。

 SNSの返事はしばらく来なかった。どれだけ頑張っても実らないこともあると離婚をした2、3年ほど前に学んだ。私の心はは少し前より随分、研ぎ澄まされたと思う。少々のことには動じない。返事が返ってこないことは大した問題ではなかった。そのあとも何の変わりもなく日々を過ごしていた。

 何の投稿だったろうか、彼が私の投稿にスタンプを送ってきてくれていた。驚きと同時に、私の顔は緩んでいたに違いない。

 何の風の吹き回しかはよくわからなかったが、彼は次第に私の投稿に反応してくれるようになっていた。そしてしばらくそれは続いた。彼とのメッセージのやりとりも少しした。どうやら付き合っていた女の子とも別れたようだった。

 ねぇ、私あなたに会いたいよ。

唐突に出た心の声を入力した瞬間に、私の指は送信ボタンを押してしまっていた。

 僕も、あなたに会いたいな!

彼が返信するのにそんなに時間は掛からなかったようだった。

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